ドナ・ウィリアムズ「自閉症だったわたしへII」新潮文庫

 著者の処女作「自閉症だったわたしへ」は、自閉症者の自伝として十四カ国で翻訳出版され、ロングセラーとなっている。この第二作は、すでに古典とも言うべき第一作が書かれ、出版されて反響を呼ぶなかで、ドナが未来の伴侶となる男性に出会うまでの三年間の記録である。専門家の説明だけではわかりにくい自閉症者の世界が、ここではリアルな手触りとともに描かれる。
 たとえば「対人関係」という、私たちには当たり前のことが、彼女にとっては苦痛と困難のたえざる源となるということ。もし人が歩くときに、たえず足を出す順序や歩幅、重心などを意識し続けていたら、すぐに転んでしまうだろう。ドナの対人関係は、あたかもこうした、歩き方を考えながらたどたどしく歩く人さながらだ。世間が「当たり前」とみなすことを、その都度徹底して考え抜いてしまう人を哲学者と呼ぶ。生き延びるために考えざるを得ないドナの明晰な言葉は、しばしば哲学者よりも遠くまで届くだろう。
 驚くべきことに、ここには哲学や心理学が語り損ねてきた「感情とは何か」という問いへのヒントすらあるのだ。強靱な意志と努力、さまざまな人々との出会いによって、これら「哲学的障害」を乗り越えていくドナの姿は、多くの自閉症者とその家族に、希望と向上のための意志をもたらすだろう。しかしたとえば「自分が自分であることに対して、体ほど大きな保証はない(大意、515頁)」といった指摘は、当事者のみならず私たちをも励まさずにはおかないはずだ。